注文データに付いてくるコメント、大量に舞い込むメールといった顧客からの要望を正確に処理し、顧客体験を最高のものにするミッションを帯びているのが、コンタクトセンターである。
通販業界ではかつて受注業務を行う部門を「コールセンター」と呼んでいたが、現在、EC通販では「コンタクトセンター」と呼ぶのが一般的だ。顧客との通信手段が、電話からメールに移ったからだ。メール対応が大半となり、隣の席の新人をベテランのオペレーターが細かく指導するのに仕切りが邪魔になるため、オペレーター席の両脇にあった仕切りも今では取り外されている。
コンタクトセンターにはEC・通販の業務知識が不可欠
コンタクトセンターでは、「どれだけEC・通販の業務知識があるか」がサービスのレベルを左右す る。顧客対応の具体的なケースを見てみよう。
【ケース1】送り先変更
ギフトの注文をしたけど、代引きにしてしまった。送り先を自宅に変更してほしい。
コンタクト
センター
すでに発送済みですので送り先変更はできかねます。
コンタクト
センター
同じ配送センターのエリアでしたら、発送済みでも送り先変更を承ります。
【ケース2】注文キャンセル
注文したけど納期が遅いのでキャンセルしたい。
コンタクト
センター
キャンセルを承りました。
コンタクト
センター
お待たせして申し訳ございません。(商品の入荷予定を確認し)ご注文の商品ですが、本日入荷がございます。明日には発送可能ですが、いかがいたしましょう。
それなら明日送ってください。
【ケース3】不良品の回収
また不良品が届いたわよ。回収してちょうだい!
コンタクト
センター
承知しました。回収にお伺いいたします。
コンタクト
センター
すぐに回収に伺います。(過去の回収時のデータを確認し)前回、回収にお伺いしましたのはご自宅ではなくお勤め先でしたが、今回はいかがいたしましょうか?
よく覚えているね。それじゃ、勤務先へ回収に来てください。
このように、EC・通販の顧客対応には特有の「勘所」があって、それを知らずに対応すると、表面的には間違った対応ではないが、顧客体験としてはいまいちの対応になっている場合が多い。
どのくらいEC・通販の顧客対応経験があるか、どれだけのEC・通販企業のコンタクトセンター業務を受けているかで、そのセンターのサービスレベルは推測できる。顧客体験が最高のものにするには、コンタクトセンターの選定は重要なポイントである。
コンタクトセンターと物流センターの連携力
コンタクトセンターの選定では、コンタクトセンター単独の評価のみならず、物流センターとの連携力も重要である。これまで説明したとおり、フルフィルメントの業務は密接につながっている。ところが、それらを別々のBPO企業が受け持つ場合もあり、連携力が問われるのだ。
その点、スクロール360では、グループ会社間でシームレスな連携を実現しており、EC事業者に負担をかけないBPOサービスを提供している。コンタクトセンターと物流センターとの連携もそのひとつだ。具体的な業務の流れを見てみよう。
スクロール360におけるコンタクトセンターと物流センターの連携フロー
- メールの振り分け→処理別のフォルダに移動
- 受注データのダウンロード
- 処理を急ぐメールの対応処理→キャンセル、当日出荷、入金確認
- 全体のメール確認→問い合わせ、ギフト加工、後払い与信NG対応など
- 物流センターへ出荷指示データ送付
- 出荷完了後、出荷報告データ受領→各モールへ出荷報告処理
- その他(メールおよび電話問い合わせ対応)
上のフローの3番目に「処理を急ぐメールの対応処理」があるが、これは物流センターのスケジュールと連携している。
例えば、配送日が翌々日と指定されており、配送先が翌々日の配送エリアなら、発送は今日中に完了しなければならない。ところが物流センターとの取り決めでは、当日出荷できるのは13時までの出荷指示データ分だ。どうしても13時までのデータに間に合わせなければならないが、少しデータの締めが遅れそう……こんなときこそ連携力が試される。
上の写真を見て欲しい。スクロール360のコンタクトセンターでは、EC事業者のオフィスと物流センターとの3か所が同時中継でつながっている。出荷指示データが遅れそうなときなどは、顧客であるEC事業者の希望通りの出荷ができるよう、リアルタイムなコミュニケーションで調整していくのだ。
他にも、次のような連携事例がある。
【ケース1】
顧客から「バッグの持ち手は本革ですか?」と商品の詳細を聞かれた。商品データに記載のない事項については、コンタクトセンターで回答のしようがない。
そこで、コンタクトセンターから物流センターに商品コードと問い合わせ内容を送信する。すると、物流センターのスタッフが、商品棚まで行って素材を調べて返信する。
【ケース2】
出荷指示データを物流センターに送信後、顧客からキャンセルのメールが届いた。コンタクトセンターには、物流センターのシステムへ直接、出荷キャンセルを指示できる機能が備えられている。そのため、コンタクトセンターからいったんEC事業者にキャンセルの連絡をし、さらにEC事業者から物流センターに指示を出すといった伝言ゲームをする必要がない。
スクロール360の物流システムでは、まず顧客に送る納品明細書のバーコードを読み、次に箱詰めする注文商品のバーコードを読み、両者が一致して初めて送り状がプリンターから出力される。送り状がプリントされるまでは、キャンセルも送り先情報の修正も可能だ。
したがって、送り状が出力されるまでは、希望の住所データをコンタクトセンターで入力し直せば、物流センターでは新しい住所が印字される。
送り状がすでにプリントされてしまった場合は、最終手段として出荷バースまで該当の荷物を探しに行き、送り状の差し替えをすることも可能だが、この時はイレギュラー処理として有料となる。
この記事は『 EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。
著者情報
高山 隆司 株式会社スクロール360 常務取締役
1981年株式会社スクロール(旧社名ムトウ)に入社後、新規通販事業の立上げ、販売企画、INET戦略策定など42年にわたり通販の実戦を経験。2008年、他社のネット通販事業をサポートするスクロール360設立に参画、以後200社を超えるネット通販企業の立ち上げ、コンサル、物流受託を統括。著書に『ネット通販は物流が決め手!』『EC通販で勝つBPO活用術』『通販まるごとソリューション』(いずれもダイヤモンド社)がある。
著者情報
佐藤 俊幸 株式会社もしも 取締役
2007年もしも入社後、ネットショップ運営コンサルタントとして、全国の300以上のネットショップに対して集客を中心に支援。2014年よりアフィリエイト広告を中心としたマーケティング事業を統括。2018年に、もしもはスクロールグループに入り、以後、グループ一体となって通販支援に従事。