今回は「離脱」自体に焦点を当てる。ECサイトではどれくらいのユーザーがどのような理由で離脱しているのかを整理した上で、ユーザーの離脱を改善させた場合、具体的にどの程度の効果が見込めるのかについて解説する。
「カゴ落ち率70%」という現実
ECサイトで、「カートに商品を入れたけど結局買わなかった」(=カゴ落ち)経験をお持ちの方は多いはず。しかしサイト運営者側はそのようなカゴ落ちの実態をどこまで把握しているだろうか。
これまではあまり表立って取り沙汰される機会が少なかったが、徐々に実態が明らかになってきており、それと同時にそのインパクトも実感できるようになってきた。
デンマークのウェブユーザビリティ研究所であるBaymardが、IBMやListrakなどのベンダー各社が実施しているカート放棄率のデータを集めた統計調査を発表している。それによると、2006年から2015年の33件のレポートから集計したカート放棄率の平均は68.63%だった。緩やかではあるが年々カート放棄率は上昇傾向にあり、2015年(4件)のデータだけ見ると平均72.7%にもなる。
これは単純に計算しても、月間1億円分カートインされているサイトなら、7千万円あまりがカゴ落ちし、実質3千万円しか売り上げていないことになる。改めてカゴ落ちによる損失額の多さにぞっとする担当者も多いだろう。
最近徐々に、「カゴ落ちの発生率が70%もある」というこの実態がECに関わるマーケティング業界で浸透するにつれて、EC事業者も看過できない問題であることに気が付き始めてきた。危機感を持つもの当然だろう。なにしろカートという購入直前で売上3千万円に対して7千万円も抜け落ちているのだから。
ユーザーはなぜカゴ落ちするのか?
では、なぜユーザーはカートインしたにもかかわらず買わずに離脱するのだろうか。カゴ落ちする理由も様々なところで調査が行われており、具体的な内容が分かってきた。詳しく見てみると、次のようなパータンに分けることができる。
短期間で改善できる可能性がある理由
● 購入意欲や優先度
「時間がないので後回し」「LINEのメッセージに気を取られて放置」「まだ検討段階」など
● 使い勝手
「入力項目が多すぎる」「ゲスト購入ができない」「セキュリティが心配」など
● 不具合
「ログインできない」「決済でエラーが出る」「サイト表示が遅い」など
長期的な視点で改善する必要がある理由
○ サポート
「返品交換ができない」「アフターサービスに不安がある」「認知度が低いサイトで不安がある」など
○ 費用や配送
「送料や手数料で思ったより金額が高くなった」「届くまでに時間がかかる」など
○ 商品力
「商品自体の魅力が不足」「販売価格が高い」「他に良い商品が見つかった」など
これらのうち「サポート」「費用や配送」、また「商品力」に関しては、一朝一夕で解決できる問題ではないので少し時間をかけて取り組んで行く必要がある。
一方、その他の「購入意欲」や「使い勝手」、「不具合」などは内容によって比較的短期間で改善できる場合がある。
いま買う気はなくてもカートに入れるユーザーは多い
ドイツのインターネット調査企業であるstatistaの「2015年2月時点におけるカート放棄の理由調査」によれば、カゴ落ちの理由の中で43%は、「後で買うためにとりあえず商品をカートインした」と回答している。
また、米国のリサーチ会社であるForrester Researchの「カート放棄調査」でも43%が「その時点ではまだ購入する状態ではなかったがカートイン」し、24%が「後でよく考えるためにとりあえず商品をカートの保存した」と答えている。
カゴ落ち率が約7割であることや、こういったアンケート結果を考慮すると、ユーザーは必ずしも今すぐ購入する時だけカートに入れるわけではないことは分かるが、“いつかは買う可能性が極めて高い”ユーザーも多くいることが分かる。
カゴ落ち対策は改善のブルーオーシャン
仮に「購入意欲」に課題があるためにカゴ落ちしてしまっているユーザーが(調査データの24%〜43%の間をとって)30%いるとする。それを先ほどの例に当てはめると、離脱してしまう7千万円のうち2,100万円に相当する。現時点での売り上げが3千万円に対し、2,100万円ボトムアップする余地があるのであれば、これはかなり喜ばしい話題だろう。
ウェブマーケティングの領域で、特にCVRなど売上や利益に直結するような指標に対する改善目標は数%程度が一般的だろう。その数%のためにさまざまな施策を実施し、場合によっては投資もする。そのような実状から考えると、そこに24%~43%もの売上の改善余地が存在するという離脱対策は、まさに「改善のブルーオーシャン」と言える。
そしてこの改善余地に対し、直接的にカゴ落ちユーザーに働きかけ、短期間で改善できる効果的な対策の1つが「カゴ落ちメール」だ。特に即効性が期待されるカゴ落ちメールに関しては、他社よりもいかに早く実施できるかが最大のポイントとなる。
いかがだろうか。カゴ落ちメールをやらない理由というのがほぼ見つからないということが理解してもらえたのではないかと思う。どのような新しい機能やマーケティング手法でも、当たり前のレベルにまで普及してくると差別化のポイントではなくなり、せっかくの効果がどんどん薄れていく。先行優位のメリットを最大限享受するのはマーケティングの基本だ。