EC事業が年商1億円、10億円と急成長するなかで多くの企業が直面する「組織と仕組みの限界」。年商10億円を達成するためのEC基盤とツール選びについて、「ネットショップ担当者フォーラム」編集顧問 兼ネッ担お悩み相談室チーフコンシェルジュであるインフォマークス代表の天井 秀和氏に聞いた。記事内には各連載に関するチェックシートを用意しているので、ぜひ活用してほしい。
年商10億円規模の現場によくある“疲労感”とその正体
「EC年商10億の壁・天井」とよく言われるが、多くのEC事業者が年商5億円、7億円、そして10億円に近づくと、課題が膨らんでいく。
広告の費用対効果も順調で売り上げは伸びている、モールも自社ECもそれぞれ施策を回すほど成果が出る一方で、現場には次のような「余裕のなさ」が蓄積していく。
- 業務の肥大化 :商品情報の更新や在庫管理に追われ、業務改善施策に手が回らない。複数チャネル(モールや自社EC)の管理が煩雑になり、日々の業務に追われる。
- 組織の非効率 : 人員を増やしても、業務が楽にならず、ミスや確認作業といった「手戻り」ばかりが増えていく。
- 停滞する施策 : 新規施策の立案はできても、実施までたどり着けない。
「今のやり方のままでは、30億円、50億円という先のステージには到達できない」という構造的な行き止まりを感じ始めるのが、年商10億円の天井の正体である。この段階で必要なのは、新しい販促テクニックではない。ECを“カート単体”ではなく、“複数システムで成り立つ事業”として捉え直すことだ。(天井氏)
10億円フェーズで起きる“3つのつまずきポイント”
① 商品情報が増えすぎて、更新がボトルネックになる
「モールごとに異なる表記ルール」があるため、SKUが増えると商品情報の更新作業が限界に達する。複数の管理画面での手作業(コピペ)は、更新漏れや転記ミスを招き、修正のやり直しが頻発。この状態では、ラインナップの拡充そのものが運営上の大きなリスクとなり得る。
ここで必要なのが「商品情報を一元管理する仕組み」を持つ ことだ。
煩雑な作業を解消するには、「商品情報の起点を一本化する仕組み」の構築が不可欠。具体的には、以下のような選択肢があげられる。
- 専用ツール・システムの導入 :商品マスターを管理する専用ツールを活用する。
- ERPでの管理 :基幹システム(ERP)に商品マスターを統合する。
- 運用代行サービスの活用 :商品の登録・更新実務を外部の専門組織へ委託する。
重要なのは、商品情報の起点を一本化できるかどうか。情報の「正」となる場所を一つに定め、多重管理による弊害を根絶することである。(天井氏)
② モール併用が進み、在庫・受注の調整が限界に近づく
年商10億円規模(受注件数300〜500件/日)に達すると、カートに標準搭載されている受注管理画面だけで捌くのは不可能に近い。特に自社サイトと複数のモール(楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングなど)を併用する場合、次のような問題が顕在化する。
- 在庫管理の複雑化 :在庫ズレ防止のための手作業が増大する。
- 判断の属人化 :出荷判断が特定の担当者に依存し、属人的になる。
-
物流の多極化 :自社倉庫、FBA、外部倉庫などが混在し、切り分けが難航する。出荷拠点
が複数ある場合は、問題がさらに複雑化する。
ここで必ず必要になるのは「複数チャネルの統合管理」 だ。
複数チャネルの受注・在庫をリアルタイムでまとめて管理し、自動化する仕組みの導入が不可欠。検討すべき選択肢は次の通り。
- 一括管理ツール :受注情報の取り込みと在庫連動に特化したシステムの導入。
- WMS(倉庫管理システム)連携 :WMSとの高度なデータ連携。
- 運用設計支援 :モール併売を前提とした運用設計ができるEC支援ツールやベンダーによる支援。
こうした仕組みがないままでは、労働力(人員増)に頼るほかなく、事業成長が停滞するリスクが高い。(天井氏)
③ 顧客データはあるのに、販促に生かしきれない
年間売上が10億円規模に達すると、蓄積された膨大な顧客データをいかに活用できるかが成長の分かれ道となる。しかし、現状では次のような状態に陥りやすい。
- 自社ECとモールのデータが分断されている
- 購入履歴とサイト内での行動履歴が紐づいていない
- CRM施策が単発で終わる
- チャネルをまたいだ購入履歴、顧客対応履歴を追えない
この状況を打破するために不可欠なのが「顧客データをまとめて一元管理できるCRM/マーケティング/接客ツール」を持つこと だ。具体的には、次の通りである。
- MA(最適なコミュニケーションを自動化するマーケティングオートメーション)
- CDP(顧客データを統合する仕組み)
- カートシステムの枠を超えて顧客情報を管理できる「CRMツール」
広告費を増やさずに、既存顧客の体験価値を高めてLTV(顧客生涯価値)を上げ、売り上げを伸ばすためには、ここへの投資がキーポイントであり、最も効果的である。(天井氏)
10億企業のカート選びは「単体性能」ではなく「つなげやすさ」
年間売上10億円のフェーズで重要なのは、 カートシステムに全ての機能を求めるのではなく、他のシステムを活用することである。たとえば、
- 商品情報
- 受注・在庫
- 顧客データ
- 倉庫・会計・モール
これらを外部ツールやベンダーと“つなぐ前提”で設計できるかが、カート選びの最大のポイントになる。(天井氏)
特に以下の観点での比較が欠かせない。
- APIが十分に公開されているか。
- 外部ツールとの連携実績があるか。
- ベンダーや制作会社が10億円規模に耐え得る「つながった状態の属人的でない運用」を深く理解しているか
広告費を上げずにLTVを最大化できるかは、この「外部連携を軸としたデータ基盤」の構築にかかっている。
ツール・ベンダー選定は「全部入れ替える」話ではない
売上規模が10億円に達した際のシステム改善は、「フルリニューアルを前提」とするのではなく、「外部連携による最適化」を選択するのが現実的な最適解である。
外部連携によるアプローチ例
- 機能の補完 :不足している機能や役割は外部ツールの追加導入などによって補う。
- 運用設計の暫定対応 :ベンダーと一緒に運用フローを整理し、まずは現時点のボトルネックのみを解消する。根本的な解決は、将来の大規模リニューアル時まで先送りする。
- 段階的な移行 :将来を見据えて、「商品管理」や「顧客管理」といった特定の領域に限定して部分的な拡張・リニューアルを実施する。
このフェーズでは、システムを丸ごと入れ替えるリスクとコストが増大するため、全機能をカートへ集約させようとするのは得策ではない。むしろ、「どの業務が滞っているか」を整理してボトルネックを見極め、将来を見据えながら最適化を図る判断が重要になる。(天井氏)
年商10億円は「ツールとベンダーの選び方」が変わるタイミング
年商10億円規模は、「カートシステムのみを中心にして作れる」運用の限界点である。このフェーズで成長を続けるには、「仕組みを選ぶ視点」への切り替えが不可欠だ。
- どの業務をツールに任せるのか
- どこをベンダーと一緒に設計するのか
- カートに何を期待し、何を切り出すのか
この整理こそが、30億・50億という次なるステージへ進むための道筋となる。(天井氏)
年商10億円を達成するために、企業が選ぶカートシステムの必須条件チェックシートをご用意しているので、ぜひ多くの企業さんに活用してほしい。


