ECビジネスを拡大させるために必要不可欠なカートシステム。「これから事業を始める」「まずは初期投資を抑えて始めたい」といったニーズは少なくない。ただ、それが成長の足かせ、成長の壁になってしまうケースがある。「年商1億円を達成するためのECカートシステム選び」を「ネットショップ担当者フォーラム」編集顧問 兼ネッ担お悩み相談室チーフコンシェルジュであるインフォマークス代表の天井 秀和氏に、“成長を実現する”ためのカートシステム選びを聞いた。記事内には各連載に関するチェックシートを用意しているので、ぜひ活用してほしい。
ECサイト構築で最も後悔する選択とは?
EC事業をスタートする際、コストと手軽さを優先してカートシステムを選ぶことは多いだろう。「初心者にもわかりやすそうだから」「人気だから」「最初は売上がないので高いカートは無理」――しかし、この選択が後に大きな後悔を生むことになる。
たとえば、年商1000万円から5000万円へと成長する過程で、初期の「安易なカート選び」が原因で、「カート移行地獄」に直面する企業も少なくない。
カート費用は「コスト」ではなく「投資」。まず年商1億円超えを達成するには、そのゴールから逆算し、最初から本格的なシステムを選ぶべきである。(天井氏)
スタートアップ向けカートの3つの落とし穴
月額費用ゼロ円や月額数千円から手軽に始められるカートシステムは、初期費用を抑えたいスタートアップにとって魅力的。しかし、最低限年商1億円超えをめざす企業にとって、「時限爆弾」となり、最終的に成長の「足かせ」となる可能性がある。
そこには主に3つの落とし穴があるという。
◆落とし穴①:機能制限という見えない天井
年商1000万円なら「店長の腕力(気合いと根性)」でなんとかなるが、年商3000万円を超えると、次のような制限が売上機会の損失となり、成長を阻害する。(天井氏)
- 商品登録数の上限(100〜1000点程度)
- 決済手段の制約(クレジットカードと代引きのみ、など)
- 顧客データのインポート、エクスポート制限
- メール配信数の上限、メール配信リスト数の上限
- クーポンやセール機能の貧弱さ(全商品一律割引のみ、など)
- 外部ツールとの連携不可
これらの制限により、「商品が増えて登録できない」「リピーター向けの特別セールをしたいのにできない」「広告効果を測定できない」「外部システムと連携できない」「物流業務を委託できない」――といった、成長のための施策が打てなくなる。
◆落とし穴②:「後で移行すればいい」という幻想
「最初は安いカートで始めて、売り上げが伸びたら本格的なカートに移行すればいい」。これは一見、コスト面では合理的な事業の進め方に見えるが、実際のカート移行は想像以上に難しさがつきまとう。
カート移行の主要なリスク
- データ移行の困難さ :顧客データ、注文履歴、ポイント残高やクーポン、商品データなどの完全移行は技術的に困難である。過去の購入履歴が引き継げない場合、リピート施策がいったんすべてリセットされることになる。
- SEOの損失 :URL構造の変更により、検索順位は大幅に下落する可能性がある。全ての文字原稿といった資産を移行できるとは限らず、検索流入が売り上げの大きな割合(30〜50%)を占める場合、致命的なダメージを受ける。
- 機会損失 :移行期間(通常2〜6か月)は新施策が停滞する。成長期に施策を止めざるを得ないというジレンマが発生する。
また、カート移行に関する実質コストは、金銭的に100万〜500万円、時間的に半年程度を見た方がよい。初期投資やカートの月額利用費数万円を惜しんだ代償としては大き過ぎる。
◆ 落とし穴③:マーケティング機能の決定的な不足
スタートアップや立ち上げ期の企業にとって、リピーターの獲得は利益計画(P/L)を改善し、新規集客のための広告投下に依存し続ける「ラットレース」から脱却するために極めて重要だ。(天井氏)
この時期は顧客基盤が小さいため、リピート施策による安定した粗利を稼ぎにくく、どうしても有料広告で新規集客を賄う比率が高くなる。それを改善するためには、最初から分析ツールやCRM施策への投資が必要である。これにより、小さな顧客基盤でも貴重な現金に変えることができる。
成功企業は、リピーターによる売上で黒字運営が成り立っているため、その余剰資金を新たな顧客ターゲットの開拓など「前のめりな」広告投資に回すことができる。(天井氏)
成功企業のマーケティング施策例
- 新規顧客とリピーターで、異なるメッセージを配信
- 購入金額に応じて、段階的なクーポン施策
- カゴ落ちユーザーへの自動リマインド
- 商品カテゴリごとのクロスセル・アップセル
- 顧客セグメントごとのLTV(顧客生涯価値)最大化施策
低価格帯のカートでは、これらの施策の大半が実現できない。結果として、獲得した顧客のLTVを最大化できず、広告費をかけても利益が残らない構造に陥る。
年商1億円企業が選ぶカートシステムの5つの必須条件
では、年商1億円超えを達成した企業は、どのような基準でカートシステムを選んでいるのか? 5つの必須条件がある。
◆条件①:充実したマーケティング機能が備わっているか
年商1億円以上を達成した企業にとって、カートシステムは単なる“注文受付ツール”ではなくマーケティングプラットフォームである。
搭載されたマーケティング機能を活用することで、LTVを最大化している。同じ広告費でも売り上げが1.5倍〜2倍変わるのだ。
◆条件②:利益を生むデータ分析・活用機能が備わっているか?
売り上げを伸ばすには、感覚ではなくデータに基づいた意思決定が不可欠である。
顧客生涯価値(LTV)の見える化やRFM分析、GA4との連携など、データがリアルタイムで見られない環境では、施策の効果検証に時間がかかり、PDCAサイクルが回らない。
◆条件③:業務効率化の「連携機能」は備わっているか?
年商1億円規模になると、受注処理、在庫管理、発送業務、経理処理の効率化が利益率に直結する。
たとえば、在庫を一元管理するシステム連携や、WMS(倉庫管理システム)連携、会計ソフトやCRM/MAツールとのデータ連携などの活用だ。
これらの連携や独自システムとつながる、充実したAPIがあれば、年商1億円でも少人数での運営が可能になる。逆に、手作業が残る環境では人件費が利益を圧迫して事業の黒字化が遠のいてしまう。(天井氏)
◆条件④:拡張性とカスタマイズ性は備わっているか
事業が拡大すると、標準機能だけでは対応できない要望が必ず出てくる。たとえば、デザインの自由度、サブスクリプション(定期購入)対応、掛け売り、見積もり機能などのBtoB機能、越境ECへの対応などだ。
今は必要ない機能でも、3年後に必要になることは珍しくない。その時に対応できないと、リニューアルという大きなリスクとコストが必要になってしまう。(天井氏)
◆条件⑤:決済手段の充実とセキュリティ
決済は売り上げに直結するため、成功企業は、顧客の支払い方法の選択肢を多様化している。
確実なのは「年商1億円を超えている企業の実績」で選ぶこと
5つの条件を満たすカートシステムを見極める最も確実な方法は、「年商1億円以上を達成している企業が実際に使っているか」を確認することだ。成功企業が使用するカートには理由がある。高度な機能と拡張性など、売る上げを伸ばすための必須条件を満たしている。
一方、導入事例に「小規模事業者」や「スタートアップ」が多いカートは、成長の壁に直面している証拠である。
多くのカートシステムは段階的なプランを用意している。小規模プランで始めても、同一システム内でアップグレードできるなら、移行コストは発生しない。
カート選びは「今の売上を基準にした手軽さ」ではなく、「3年後の目標」で判断すべき。重要なのは「年商1億円に対応できるシステムを選んでおくこと」である。(天井氏)
年商1億円企業が選ぶカートシステムの必須条件チェックシートをご用意しているので、ぜひ多くの企業さんに活用してほしい。


