見込み顧客との最初の接点をどこで作るか
ECマーケティングにおいて新規顧客とどのように関係を築いていくのか。ここでは敏感肌のために保湿成分を高濃度で含むスキンケア化粧品「360スキンケア(仮名)」を例にとって考えてみよう。
顧客体験を最高のものにするということを頭に置きながら、限られた広告予算内で売上目標を達成するためには、前回紹介したカスタマージャーニーマップに「クエリ」(検索エンジンで検索されるキーワード)の行を追加して考えるとよい。
最初にやるべきは、購入直前クエリでの検索連動型広告への出稿だ。「360スキンケア」といった商品名クエリで検索する顧客は、購入直前の状態にある可能性が高い。商品名クエリは検索連動型広告への入札単価も低い傾向があるため、特別な理由がない限りは出稿すべきだ。
さらに、360スキンケアの特徴である「敏感肌のために作られていること」「保湿成分が高濃度で含まれている」ことを求めている生活者にアプローチするために「敏感肌 スキンケア 通販」「敏感肌 保湿 クリーム」「保湿成分が多い化粧水」といったクエリでも広告出稿する。
カスタマージャーニーマップにクエリを追加した例
- 認知・興味……敏感肌 つらい
- 情報収集……敏感肌 保湿クリーム 保湿成分が多い化粧水
- 初回購入……360スキンケア 敏感肌 スキンケア 通販
- リピート購入……360スキンケア
- 共有……なし
検索連動型広告に出稿するためのプラットフォームである「Google広告」は2010年代に大きく進化し、ECマーケティングの初心者・中級者でも80点(上級者が運用した広告運用品質を100点とする)で運用ができるようになっている。それは競合も同じ環境にあるということだ。詳しくは専門書を読んでいただきたいが、検索連動型広告の運用を100点に近づけていくためには主に以下のような対策を行う必要がある。
設計
- カスタマージャーニーマップ、ファネルに基づいたクエリ候補の洗い出し
- 候補の中から優先的に広告出稿をするクエリの選定
- コンバージョン計測地点、タイプの設計
- アカウント、キャンペーン、グループ、キーワードの設計
設定
- 設計した内容をGoogle広告管理画面で設定する
- 広告表示オプションや除外キーワード設定を反映させる
運用
- クリック率・購入率向上のための広告クリエイティブ調整
- 効果に結びつきにくいクエリへの出稿削減のための完全一致率の向上
- 広告競合のクリエイティブ変更、出稿単価変更への対応
- 平日、土日、時間帯の出稿調整
- 月の前中後期での予算調整
- キャンペーン時の広告クリエイティブ、オプションの調整
これらによって、見込み顧客との接点を作る。
検索連動型広告は一度に設定して終わりではなく、運用調整をし続けることによりOne to Oneに近い状況を作っていくことができる。
例えば、最初は「敏感肌 スキンケア 通販」という多くの人が検索するクエリでCPO=5000円で顧客獲得(全体最適化)していたものを、「敏感肌 背中に赤いぶつぶつ 通販 絶対にベタベタしない」という1年に1回しか検索されないようなクエリでCPO=2500円で顧客獲得(One to One)できるようにしていくのである。
ディスプレイ広告とアフィリエイト広告で接点を広げる
そうはいっても結局、「360スキンケア」という商品名クエリでしか許容CPOの金額内で顧客を獲得できないかもしれない。「敏感肌 スキンケア 通販」では競合が多くて入札単価が高騰しており、戦えない。商品自体から見直したいが、すでに在庫を抱えているし、商品開発に追加費用も時間もかけられない。だから、マーケティングで解決したい。そういうケースも当然あるだろう。
そのときの次なる手段は、「ディスプレイ広告」と「アフィリエイト広告」だ。
ディスプレイ広告は、Google広告のディスプレイネットワークをはじめ、Facebook広告、アドネットワークやDSP(Demand Side Platform)などの様々なプラットフォームがある。Webサイトやアプリを訪れたときに四角い広告枠があり、広告が表示されていることを見たことがあるだろう。そこに広告出稿するのである。
ディスプレイ広告は、検索エンジンで何かを探している見込み顧客ではなく、より潜在的な見込み顧客にアプローチできることが特徴だ。
ただ、潜在顧客であるため、検索連動型広告と同じようにいきなり商品詳細ページに誘導してもうまくいかないことが多い。ディスプレイ広告をクリックしたら、記事LP(Landing Page)と呼ばれる「読みもの」コンテンツが書かれたページに飛ぶようにし、その記事LPで購入意欲を高めてもらってから商品詳細ページに誘導するのがよくあるやり方だ。
ディスプレイ広告をクリックする見込み顧客は、その直前までその広告が掲載されているサイト上の別のコンテンツを読んでいて、心理的には「読者モード」になっている。
「読者モード」の状態で商品詳細ページにいきなり来てもらっても購入率は低い。「読者モード」の見込み顧客に記事LPを読んでもらい、「購入モード」になった後、商品詳細ページに誘導することで購入率を高めるのだ。
アフィリエイト広告もよく使われる手法である。アフィリエイト広告は検索連動型広告とディスプレイ広告の中間の特徴を持っている。見込み顧客が「敏感肌 保湿 クリーム」というクエリで検索をしたときの行動は3パターンに分けられる。
①検索連動型広告をクリックする
②自然検索結果からEC通販サイトをクリックする
③自然検索結果からEC通販サイト以外の情報サイトをクリックする
このうち、生活者が①を選択した場合、その情報サイトにアフィリエイト広告を掲載することでEC通販サイトに誘導することができる。
アフィリエイト広告で重要なことは、有力な情報サイトに広告を掲載することだ。しかし、有力な情報サイトであるほど、アフィリエイト広告を掲載したいと考えるEC通販サイトはたくさんある。
その中で自社へ誘導するアフィリエイト広告を掲載してもらうためには、「報酬単価」×「好意度」の掛け算を大きくする必要がある。情報サイト運営者は「より多くの報酬が得られ」かつ「自身のサイト読者に自信を持ってお勧めできる商品」の広告を掲載したいと考えている。
検索連動型広告で「購入意欲が高い顧客」を獲得し、ディスプレイ広告で「購入意欲がほどほどの顧客」を獲得し、アフィリエイト広告で「購入意欲が高い顧客もしくは購入意欲がほどほどの顧客」を獲得す るのである。
これらの広告は、「獲得」の結果だけに意識を向けることも良くない。カスタマージャーニーマップを思い出してほしい。アフィリエイト広告で興味段階の顧客にアプローチし、検索連動型広告で購入直前の顧客にアプローチし、その両方の影響で購入完了に至る。さらにその後にリピートするかどうかは、アフィリエイト広告が掲載されるブログ記事の内容も影響する。個別効果を見ながら、全体効果も強く意識しよう。
もちろん、商品によってケースは様々で一概には言えないが、ここにさらにインフルエンサー広告を加えることが現時点のインターネット広告の王道だろう。
インフルエンサーとの協力体制を作る
「インフルエンサー広告」はまだまだ黎明期でチャンスがたくさんある。
例えば、ガジェットインフルエンサー「マクリン」をご存知だろうか。本書の読者は知らない人が多いかもしれないが、イヤホンやモバイル機器などのガジェットをわかりやすくブログ、Twitter、YouTubeで解説している人気インフルエンサーである。
2019年にインターネット広告の市場規模は2兆円を超え、TV広告を抜いた。インターネット広告は、これまでのマス広告とは全く異なる。つまり、同じメディアをみんなが見るのではなく、自分が見ていて楽しいメディア、参考になるメディアを1人1人が選択する時代になったのだ。
マクリンのように熱狂的な読者がついているインフルエンサーは世の中に多数存在し、これからさらに細分化されていくだろう。ガジェットインフルエンサーではなく、イヤホンインフルエンサー、充電バッテリーインフルエンサーへ。「そこまでこだわっている人が言うならきっと良い商品なのだろう」と考える人が増えるからだ。
人気TV番組『マツコの知らない世界』では、かき氷中心の食生活の人、干し芋にとにかくこだわっている人など、1点突破のこだわりを持つ人たちが登場する。そういう世界観と情報が求められている時代なのである。
そう考えると、自社商品と相性が良いインフルエンサーと組んで広告展開をすることは、今後の成長戦略の1つとして検討に値する。
ちなみに、スクロールグループの株式会社もしもでは、2020年にインフルエンサーへの広告展開ができるサービス「もしもクリエイター」を開始した。自社に合ったマニアックなインフルエンサーを探すツールとして使えるはずだ。
顧客の特徴による獲得手法の違い
広告を顧客獲得のため手段と考えると、獲得効率性だけに着目しがちだ。しかし、ECマーケティングで最終的に実現したいことは「最高の顧客体験」であり、広告もその体験の1つである。
購入意欲が高い見込み顧客にはもちろん、すぐに商品を買ってもらえるよう誘導することが顧客にとっても自社にとっても良い。
「360スキンケア」の例に戻ろう。購入意欲はまだ低いが敏感肌で自分の肌に合う商品を見つけられずあれこれを買い回っている見込み顧客がいたら、いきなり自社商品を勧めるのではなく、肌診断で自身の肌の特徴を教えてあげたり、現在のスキンケアの方法をヒアリングして改善のアドバイスをしたりしてから、その延長で自社商品を提示するのが良い。
こうした「最高の顧客体験」を意識した顧客へのアプローチは、後述するMA(Marketing Automation)にもつながる。
検索連動型広告からすぐ商品購入に至っている顧客は、第三者の情報で確認したりなどせず、自身の直感的な判断で行動しているため、リピート率が低い傾向がある。一方、アフィリエイト広告から商品購入に至っている顧客は、商品に関する情報をじっくり読み込んでから行動しているため、リピート率が高い傾向がある。
そこで、次のような対応を考えるのだ。
顧客タイプ①
「検索連動型広告経由での商品購入」かつ「30代女性」かつ「都内在住」かつ「購入までの公式サイト内ページ閲覧数が3ページ未満」の顧客
↓
リピート率が低くなる傾向がある
↓
初回商品を配送したときの同梱物に「同じ年代のお客様の声が多く掲載されたブランドブック」を入れる
顧客タイプ②
「アフィリエイト広告経由での商品購入」かつ「30代女性」かつ「地方在住」かつ「購入までの公式サイト内ページ閲覧数が10ページ以上」の顧客
↓
リピート率が高くなる傾向がある
↓
3回目に商品を届けるタイミングでより高級なラインナップ商品を提案する
顧客獲得は顧客体験のスタートだ。最初の印象が良ければ、その後は長いお付き合いとなるだろう。
顧客獲得は自社と顧客の関係の始まりであり、単純なCPOだけで語れるものではないということをマーケティング担当者は肝に銘じてほしい。
この記事は『EC通販で勝つBPO活用術』(ダイヤモンド社刊)の一部を編集し、公開しているものです。
著者情報
高山 隆司 株式会社スクロール360 常務取締役
1981年株式会社スクロール(旧社名ムトウ)に入社後、新規通販事業の立上げ、販売企画、INET戦略策定など42年にわたり通販の実戦を経験。2008年、他社のネット通販事業をサポートするスクロール360設立に参画、以後200社を超えるネット通販企業の立ち上げ、コンサル、物流受託を統括。著書に『ネット通販は物流が決め手!』『EC通販で勝つBPO活用術』『通販まるごとソリューション』(いずれもダイヤモンド社)がある。
著者情報
佐藤 俊幸 株式会社もしも 取締役
2007年もしも入社後、ネットショップ運営コンサルタントとして、全国の300以上のネットショップに対して集客を中心に支援。2014年よりアフィリエイト広告を中心としたマーケティング事業を統括。2018年に、もしもはスクロールグループに入り、以後、グループ一体となって通販支援に従事。